研究概要 OUTLINE

生殖細胞系列の戦略について
様々なレベルで解析し
体外培養での再構築を目指す。

九州大学 医学研究院 教授

林 克彦Katsuhiko Hayashi

生殖細胞の魅力とはなんだろうか?どうして研究者たちは毎日何時間もその細胞のことを考えて過ごせるのだろうか?思えば不思議である。自分の人生が、得意気に丸々としている卵子と、無邪気にちょろちょろしている精子に振り回されているかと思うと、滑稽ですらある。もっとも、同じように振り回されている人はたくさんいて、その細胞について日々悩み、口角泡を飛ばしている。

私見ではあるが、一言で言えば、生殖細胞の魅力は「永続性」であろう。受精卵から始まる個体発生が様々な過程を経て、生殖細胞系列を介して再び受精卵に戻る。生命はこのサイクルを何千・何万と繰り返し、種の保存と様々な環境に適応する多様性を生み出している。言い換えれば、生殖細胞系列には、種の維持という生命にとって最も根源的な目的の達成のために、様々な戦略が凝集されている。それらの戦略は、長年の歳月により作り上げられたものであるから、巧妙かつロバストなはずである。面白いのは、それらの戦略は予め設計されたものではなく、様々なエラーを繰り返し、その都度適応することにより構築されていることである。そこには「ベスト」は存在せず、寄せ集めをうまく使い、当座をしのぐ生物の粋が凝集しているように思える。様々な危機を乗り越えてきた生殖細胞のたおやかさは、人を魅了するのに十分なのであろう。

本領域研究では、その生殖細胞系列の戦略(すなわち、いかにして良質の配偶子を生み出すか)について、分子・細胞・個体など様々なレベルから解析し、それを体外培養で再構築することを目指す。何百万年もかけて作り上げられてきた戦略の一端を、最新の技術で検証し再構築するチャンスを得られたということは幸運としか言いようがない。与えられた5年の研究期間の中で、できる限りのひも解きをしていきたい。

研究とはつまるところ人であると思う。お花見にそれぞれの人が好きなお惣菜やお酒を持ち寄ってくるのと同じく、生殖細胞好きがいろいろネタを持ち寄って、自由にそして真剣に議論する領域にしたい。生殖細胞研究を新たな次元へつなげるために、若い研究者の参加も大いに歓迎したい。

ロゴマークについて

連綿とつながる生殖細胞系列のループを尊みて

本領域が研究対象としている配偶子と動物でGametogenesisの頭文字Gを描いた。スパイラルにもみえるこの形は、有性生殖を行う動物たちが受精卵から始まり、個体形成を経て、再び受精卵として次世代を残すという、幾千と繰り返されてきた生命のサイクルを表現している。この過程に構築される配偶子のインテグリティ(発生能を保証する配偶子の機能性)を解明して再構築するのが本研究の目的であり、新たな学術領域への期待を込めてイメージした。

領域の概要

本研究領域は、配偶子の受精能や発生能を保証する機能的な完成度「配偶子インテグリティ」がどのように構築されるかを理解して再構築することを目的とする。

これまでの研究において、体外培養で配偶子を産生する「in vitro gametogenesis」がマウスを用いて報告された。in vitro gametogenesisで産生される配偶子は、形態的には正常であるものの、その受精能や発生能(いわゆる配偶子インテグリティ)は、生体内の配偶子に比べて極めて低い。このことは、生体内には配偶子インテグリティを効率的に構築するシステムが存在することを示唆しており、同時にin vitro gametogenesisではそのシステムを再現できていないことを示唆している。

そこで本研究領域では、生体内において配偶子インテグリティがどのように構築されるかを理解し、それらをin vitro gametogenesisにおいて再構築することを目指す。この実現のために3つの研究課題を設定する。研究項目A01において、配偶子インテグリティを体外培養で再構築するための革新的な培養システムの構築を行う。これは、マウス以外の動物種についても研究の対象とし、種間の相違を理解するとともに、ロバストな培養システムの構築を目指す。研究項目A02において、配偶子インテグリティを非破壊的に定量化するための革新的技術や、微量サンプルから精度の高いオミクス解析を可能にする技術の開発を行う。またそれらの技術により分類された配偶子を用いて、配偶子インテグリティの物質的基盤を明らかにする。研究項目A03において、生体内における生殖細胞の選択機構について解析し、生殖細胞の品質管理機構の解明を目指す。これには生殖細胞集団の不均一性を分子レベルで解明する技術の開発を含む。

これらの研究を有機的に連携させることにより、配偶子インテグリティの理解を深め、それらを再構築することによりin vitro gametogenesisを革新的技術として確立する。この革新的技術の確立により、基礎生物学・医学・畜産学・水産学等にまたがる新たな学術領域を創成することを目指す。

配偶子インテグリティの構築

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研究概要